SATELLITEへふたたび④

今回のテーマをおそらくサローネ初日あるいは前夜にUPしますがもう少し試作のお話を。
ミラノサローネには毎年行われる家具の展示の他、隔年で「エウロルーチェ(EURO LUCE)」という照明に焦点をあてた年と、「エウロクッチーナ(EURO CUCINA)」というキッチンなどに焦点を当てた年があります。2015年は照明の年ですので多数の照明メーカーがブースを出します。今年照明ということは来年はキッチンであるのでテーブルウェアメーカーはリサーチやハンティングの年になります。
僕らは今回家具の他に照明とテーブルウェアを出展します。フィエラにブースを持つ家具、照明メーカーとリサーチにくるキッチン用品メーカーとのコンタクトを強くしたい為にそれぞれに対する提案を行う事にしました。その中にガラスを使ったテーブルウェアのアイデアがあります。ガラスそのものはデザインしたことがなく、興味深い素材でありながらアイデアをどのように具現化するのか正直わからない部分がありました。
また僕らは試作を自分たちで製作する事はなく、日本に多く存在する職人や町工場にお願いしての製作になります。今回ガラスを製作する際にお願いしたのは和泉市に工房を構える「fresco」さんです。泉北高速鉄道和泉中央駅からバスに乗る事20分。そこからさらに歩いて10分。山あいにあるさわやかなブルーの壁面の工房にありました。
frescoさんには「デザイナーズブロー」というシステムがあり、ある一定時間職人さんが製作をしてそれに対して色々オーダーを聞いてもらえるというサービスなのですがそれがとてもよく、実際に目の前で製作してくれる事で製作工程がわかりますし、自分のデザインのどこに無理があるかを知る事もできます。実際にはやはり生産工程においての無理は量産性を下げ、それにより価格が上がってしまうのでユーザーに渡りにくいという事があります。ただそのできる事の中だけで行うと物が溢れた現在においては「余白」はほぼ残っておらず誰かのアイデアとかぶってしまいます。目の前で実際に製作してもらうとその職人さんの技術力に助けられているデザイナーがどれだけたくさんいるかがわかります。生産方法を見つめなおす事で新しいアイデアを昇華する事ができる事も事実かも知れないですし、現に世界のトップクリエータはグローバル市場向けの大量生産品においても必ず社会的な思想や環境、生産負荷に至る部分までしっかりと提案しているからこそ評価されているのだと思います。僕は34歳になり、自分で若手という認識を捨てましたのでそろそろきちんとこういう事に対して逃げないアイデアに取り組まなければと思いました。今回の提案はその部分のチャレンジでもあります。
ガラスのテーブルウェアのシリーズですが全部で五つあります。その五つをまずお話して誰が製作するかを決める。そしてその時間以外で作った方が良さそうな物を特注品としてお願いする事にしました。冷えた一月の山あいに温かいガラス炉の熱。きちんと整理された使い込まれた道具たち。一人が吹き込み膨らんだガラスを器具で絞ったり広げたり。もう一人がその間に吹き込んだり器具を揃えるなど、お互いが生産工程を理解していなければできない熟練された技を見ました。さくさくっとできあがる第一作。作りやすい構成の物は手間があっても熟練された腕でカバーできる。そういう事なんだと思う。新しいチャレンジはいつも難しい。その理由は簡単「やったことがないから」。でも職人さんは過去の経験においてとても熟練されています。その上で生まれるインスピレーションこそ芯の強い発想力なのだと思います。それを目の前で見ました。
おそらくミラノサローネの出展を決め、デザインしたことのないガラスという素材に対して挑戦していなければこの学びは無かったと思うしこうやってこの場所に来たからこそ物が誕生し、それを遠い異国の地でまた誰かと出会うきっかけになる。そういう事をさせてもらえる事は本当にとてもありがたい事だと思いました。三年前夢を叶える為に十三年かかりましたが、また三年してこうやってそこに向かえる事も自分の人生のその後にきっと大きく作用すると思っています。そうでなければこんなにたくさんの投資をしてするべきことではないと言う事は三年前にすでにわかっているわけですから。ビジネスの目線でする事と、自分を律する為にする事の両方にデザインがあるのはとても幸せな事ですね。
物の仕上がりは本当にとてもきれいで、それでいてちゃんと手で作った温もりがあり、まさしくアイデアを形にした「思作」なのだと思いました。早く皆さんにお披露目したいです。そしてこれを機にまた繋がれる誰かと共に何か作っていく事も楽しみにしながら。