16/10/21
16/10/21
人と街を組み立てる。
終わってからちょうど一週間。後の事もようやく落ち着いたのでブログを更新します。Facebookなどでつながっている方はご存じだと思いますが、実質の大阪デザインウィークであるmachi decor期間中の10/8(土)~10/14(金)に大阪市西区にあるワインとコーヒーのお店「タカムラワインアンドコーヒーロースターズ」で、昨年に引き続いてイベントをしていました。
昨年はViva la Vino[美しきワイン]と銘打ってイベントをしていましたが、今年からは継続できるイベントにしようと考え、名前をずっと悩んでいましたが私は夏ごろに[COMPOSITION]という名前に決めました。COMPOSITIONには、構成、合成、成分などの意味がありますが、その中でもとりわけ「組み立て」という意味性に惹かれこの名前に決めました。個人的にデザインは小さな判断の蓄積だと思っていて、インスピレーションに頼り切った作品ではなく、きちんとディテールに秩序が宿る物をデザインと呼ぶ事にしています。
デザイン史に詳しい方ならわかるはずですが19世紀から20世紀にかけてオランダで流れが生まれたDe Stijl[デ・ステイル]というデザイン活動があるのですが、その中心人物たちが自らにルールを課してその制約の中での創造性を極めようとした姿に私は大きな感銘を受けています。物があふれ飽食した時代にこそ、秩序、意味、物語を順序立ててデザインで表現するべきで、浅い感情的な物だけでなくあるルールに則った物こそ評価される時代になって欲しいという想いと、回文的に書くならば一般の方にデザインを伝える時にやはり、物語、意味、秩序の順番に伝えるのがいいと思ったので、活動の基盤となるイベント名にはそういう願いも込めました。それによってクリエータからユーザーへ、効率的にそのエネルギーが伝播し、街とデザイン、そして人々がデザインを中心としたある構成[COMPOSITION]を見出す事ができればこの活動の意味が顕在化すると思っています。
COMPOSITIONはあるテーマに基づいてデザイナーに作品を制作、展示してもらうデザインショーケースです。今年のテーマはmachi decorのテーマである「恋するインテリア」に少し寄せて「番い-tsugai-」としました。二つで一つになるもの、意味が生まれるもの、男女で使うものなどを考えてもらい、意味と作品をクロスさせて来場者にデザインを理解し楽しんでもらう試みです。
最近関西には良いデザインイベントは少ないなと思います。最近は東京も一時に比べ少し落ち着いてきた気がします。具体的にはDESIGNTIDETOKYOやANYTOKYOといったその旬を切り取ってフォーカスしたイベントが今年なくなってしまった事は正直残念ですが、それでもなお東京にはたくさんのいいイベントがあり、東京で学ぶ学生や若いデザイナーにはとても良い刺激になると思いますが関西にはいい学校がたくさんあるのに、その機会の差で差が開いてしまうのはもっと残念だと思います。さらに言えば最近はアジアに良く行きますが向こうのイベントのクオリティを肌で感じているだけに日本もうかうかしていられないという、誰にも伝えようのない危機感や焦燥感を自分はイベントを創り出す事でわかってもらおうと考え、事務所の持ち出しで二年連続イベントをする事にしました。
昨年あるデザイナーの大先輩に「こういう事は余裕があるときでないとできへんな」と言われたのですが、まさしくそうで社会に余裕があった15年くらい前には大阪ももっと色んなイベントがあった気がしますがそれも年々小さくなってきたのはどこも余裕がなくなってきたという事の証拠だと思います。正直、我々に資金的な余裕があるかと言われるともっと余裕のあるデザイン事務所はたくさんあると思いますが、こういうイベントをして社会に別のカタチで還元するくらいの少しの余裕は今はあります。要は使い方次第なんじゃないかと思ったりします。
昨年11月頃にユニオンのショールームで行われたmachi decor報告会では光栄なことにトリを務めさせてもらい、その前が実はイタリアの照明メーカーFLOSのプレゼンテーションで、プレゼンが終わった後にFLOSの稲葉さんに「素晴らしかったです、来年ぜひ一緒にやりましょう」と声をかけてもらいました。その時点でFLOS×KAIRI EGUCHIをTAKAMURAでという流れはできていましたが、それから今回の展示まではかなり色んなアイデアやプロセスがあって、それらもいつか実現したいなと思える内容で充実の一年でした。またデザインショーケーススタイルに結果的になったのは、FLOS×KAIRI EGUCHIはパワーバランスでかなり偏りがあったというのが正直な所です。出展者全員に助けてもらった気分です。
FLOSから照明が出ていないデザイナーと取り組むのはFLOS JAPANとしては初めてらしく、そのプレッシャーも最初はとても感じていましたが、外部との合成もまた新しい反応が起きていいだろうという事と、いつも思っている事ですが機会は二度も来ないと思っているので有難くお請けさせて頂く事にしました。FLOSとのミーティングはいつも淡々としていましたがとても楽しいものでした。また機会があればぜひご一緒したいと思いました。
そして二年目のタカムラでの展示は、昨年の経験を活かすにはもってこいでした。我々はあの場所をどのように使え、どのように工夫し、また設備は何があるか、どこまでさせてもらえるかというのはある程度理解していました。そして今年はFLOSとの三社合同展示となりましたのでさらに色んな協力をして頂きさらなる可能性を見ました。ワインショップでありながら専属インテリアデザイナーがいるので空間をとても使いやすく設計しており展示空間としてもとても考えられています。来年この時期にタカムラで展示をしたいという方が増えそうな予感がしますね。というのも10/8(土)に行われたレセプションパーティでは、お店の中に展示会場があるミクスチャなスタイルで、まるでフオーリサローネを彷彿とさせる洗練された時間を作る事ができたからです。一つのイメージを具現化できた気がします。
そして今回はポスターを作りました。FLOSとCOMPOSITIONのコラボポスターで、FLOS側はFLOSシルバーと呼ばれる銀、COMPOSITIONはフレッシュさを表現した蛍光カラーを用いそれぞれに参加しているデザイナーの名前を記載したシンプルで強いデザインとしました。FLOS側の参加デザイナーは多くのレジェンドたち(フィリップスタルク、パトリシアウルキオラ、ロナンアンドエルワンブルレックなど)の名前が連なり、自分たちもいつかそうなるという願掛けも要素として含んだポスターをデザインしました。このポスターが非常に評判よく、後から聞いた話ですが搬出の時に手伝ってくれた学生が看板からきれいに剥がして持って帰る程でした。ヨーロッパからはるばる参加してくれた盟友フランチェスコ、ラウールあと台湾からはるばる日本に来てくれたウェスリーとイデにはプレゼントしようと思っています。
会期中に「来年一緒にやりましょう」とか「刺激されました。来年自分も何かやります」と言って下さる方がいて、僕らが二年自腹を切って与えた刺激が少し遠くまで伝わった気がしました。
デザインイベントを行う時に最も重要で最も大きな課題は「場所」だと思います。大阪にはたくさんの良い場所(ギャラリー、お店、公共空間)がきっとあるはずですが場所をお借りするプロセスというのはいつもとても難しい。当然の事だと思いますが双方にとって何かメリットがなければ基本的にそのような展開にはならないですし、場所を持っている方がそのイベントに共感してもらえなければならないというプロセスがデザイナーは不得意だと自戒を込めて言えます。
もしこのブログをご覧の方で場所の宣伝はもちろん可能(今回の展示期間中に650名を超える方が来場されました)ですが、宣伝以外に地域振興、または異業種との協業を検討してもいいよと言って下さる方がおられましたら、ぜひinfo@kairi-eguchi.comまでメッセージを頂くか、直接私のFacebookにメッセージを下さい。とても人が集まるイベントのアイデアを持ちながら、場所問題がクリアできずに諦めるパターンや、資金不足で場所代をお支払できずマッチングがうまく行かないなんて話も良く聞きます。それをきちんと実現したいですし、デザイナーという普段居ないクラスタをその場所にたくさん連れてくる事も今ならできるような気もしています。それによりまた新しい反応が生まれ、場所のブランディングや可能性が見えてくるような気がしていますので、興味のある方はぜひお願いします。
我々は今回の展示でそこに住む人とその街をデザインで新しい関係性を組み立てる構図がかけた気がします。次はそれをつなげていく事に邁進していきます。
Photo / ENYA HOU(KAIRI EGUCHI DESIGN)