TENT LONDONというところ⑥

9/20(土) TENTLONDON 三日目
毎日よく眠れている。ミラノに行ったときは時差ボケの影響で夜22:00には眠くなって5:00に起きてしまいブログを書く生活をしていた。飛行機の乗り方が功を奏したようだ。旅の達人(ENYA)を真似して正解。
メンバーの赤藤(Shawn)は初日にサーキュレータにやられた喉がだいぶ治ったようだ。ロンドンは随分乾燥しているので、喉の治りがおそい気がする。
余談だが日本人は海外では一般的に若く見られるがそれは肌のせいもあると思う。欧州は基本的に日本より湿度が低いからだ。つまり、日々の保湿をあまりしっかりしなくても欧州で暮らすより保湿されているのでシワが少ないという考え方ができる気がする。人種もあるかも知れないがどちらかというと環境なのかなと思った。シミやそばかすが白人に多いのは、色素が薄いのに加えて紫外線量が欧州は多いと思っている。という仮説を持っているのだがここは専門家に聞いてみたいところ。
さて、昨日外に出たチームが今日はブースに。朝食は昨日のブースチームが作ってくれる事に。相変わらず朝は風呂の取り合いだが、チームを分けた事でブースへ行く人が多少優先的になっている。もっと早くルール化するべきだった。でもお湯が足りなくなるとか知らなかったし臨機応変に対応する事が大事だと思う。この辺の現場力はこういう場面でこそ鍛えられる。
今日は二年前にインターンシップに来てくれた森田裕之君が今ロンドンに留学していて、ブースに来てくれるとの事。そして今年インターンシップに来てくれた後藤祐介さんがはるばるドイツから駆けつけてくれるなど、来客が多いので僕もブースに行くことに。
森田君は僕がミラノサローネに出展した時に当時大学三年生だったが自費で視察に来ていて少し話し込んで意気投合。帰国後すぐにインターンシップの申し込みがあって、名古屋から来てカプセルホテルに二週間泊まり最後は事務所で二泊して作品を仕上げて行った僕が知る限り最も気合の入った学生だ。もちろん将来有望だと思っている。彼は行動力がある。とりあえず動く人でだいたいいつもいい位置にいる。そのいい位置でさらにもがいて前に進もうとする人。こういった部分はとても重要な事だけど、誰かが教えるものではないので同世代として今回のメンバーと触れ合って大きな刺激になって欲しいと思っていた。
ブースに立つ人たちが白いシャツに着替え、臨戦態勢。相変わらずTESCOで買い物するが、今日は人が少ないのでみんな少し緊張。いつものスパイス通りを抜けてオールドトルーマンブルワリーへ。道にはすっかり慣れたし、愛着がわいてきた。海外にこういう場所ができるのはなんだか嬉しい。
さて、今日は昨日外に出たメンバー畑(Roger)、江川(Eva)、奥村(Orga)、森脇(Mona)がまずは全員で立ち、その後二つに分けて片方は見て回る事に。
英語での説明はまだまだ緊張している様子。正直硬い。たぶん一時間くらいすればほぐれてくるのだがこれは仕方ないと思う。説明が結構必要な作品が多いので完結にまとめると全て伝えきれていない事もある。
なぜ漫画を題材にしようと思ったのか、作品全体の「使用者が漫画の主人公になれる」というコンセプトなど、練り込めば練り込むほどに説明しきる事が困難になる。これはミラノでも味わったが、海外では完結にパッとみて理解されるアイデアが好まれる傾向にある。理屈っぽいのはあまり理解してもらいにくい。ただ自分がミラノに出展した物よりもはるかに理解の速度は早いと思った。これは進歩だと思う。
いつも学生に話している事だが自分が誰かに何かを伝える時は、最も得意な言語を使ったとしてもおそらく自分の理解に対して相手の理解は70%程だと思う。むしろそう思うようにしている。残りの30%を補うにはどうすればいいか。
それがプレゼンテーションだと思う。順序立てて、グラフィックをしっかり作って、時には効果音を使ったりと余すことなく理解してもらうためにあの手この手で説明する。その部分は慣れない英語であればパフォーマンスは落ちるのは理解できる。ここが日本人の壁だと思う。でも流暢に英語が話せなくてもビジュアルやモックアップや図解で説明を補う事はできる。つまり海外出展する場合はそういったツールをしっかり用意する事が重要だと言う事だ。
メンバーを連れてブースを回る。三日目になると近所のブースとも仲良くなる。良いなと思った作品の所には特に何度か行くので顔や名前を覚えてもらったりして、とりあえず朝の英語のスタディに行ったりする。挨拶でスタートする日常。これはとてもいいと思う。今回の僕らのようにシフトが組まれるのであれば、簡単な挨拶から世間話を朝のお客さんの少ない時間にして口を慣らしておくといいだろう。日本人にとって海外の人と話す事そのものがコンプレックスだが、それが少し和らげばパフォーマンスは向上する。
道すがらにあるテキスタイルのブースで森脇(Mona)を見かけた。単独で行動していたようだが随分親しげに話し込んでいる。日本で英語のレッスンをしてた時はシャイな方だと聞いていたが、海外に来て何か目覚めたようだ。すっかり仲良くなってあとからそのブースのtwitterにUPされるほどだった。こういった何かに目覚める瞬間に出会えると自分たちがこうやって一緒にきて良かったなと確認できる。
さて、今回絶好調なメンバーがいる。界隈では「赤いベレー帽のあいつ」と呼ばれるほどに有名になった山田(Viola)だ。彼女は今回の作品全ての漫画を描いてくれているが、ブースに来てくれた人あるいは周囲を歩いている人の似顔絵を描いてプレゼントして回っている。昨日かなり描いたようで三日目には随分友達も多くなり、またどんどんブースにお客さんを呼んできてくれている。おかげでブースには結構人が集まってくる。仕掛けは重要だと改めて思ったし、それぞれの役割がきちんと明確になる事で自分たちにできるパフォーマンスを120%にまで引き上げる事ができる。
ブースに戻ると後藤さんが来てくれた。後藤さんはドイツ住まいで英語もドイツ語もビジネスレベルの30歳。彼ほど優秀なインターンシップはいなかったし今後もおそらく来ないだろうと思う。実戦レベルとはこのことだ。成熟した思考、クレバーで適切な判断、本質を見極める能力はおよそ30歳とも思えない程だ。すぐにでも独立できるのでは?と思えるくらいのレベルだと思う。日本で社会人をある程度経験し、その職種がエンジニアであった事もあり、非常に柔和でいて賢い人だ。
そんな人から連絡があったのが今年の初めだっただろうか。一本のメールをもらった事から始まった。「今ドイツに住んでいますが夏休みに一度日本に帰るのでぜひ経験を積ませて下さい」とのメールだった。聞けば地元は東京だそうだがわざわざ日本のしかも大阪の事務所を選んだとの事。僕の「コンセプトを造形に落とし込む事」をぜひ学んでみたいとの事だった。海外でがんばっている、あるいはそういう意識を持った人が自分の所に来て経験を積みたいと言ってくれるというのは、大変ありがたい事だし今後そういう事があるかはわからない。会ってみたいと思い、三月ごろ後藤さんが来日された時に大阪に寄ってもらい面談する事になった。
夏に来てもらい、二か月間。事務所設立以後もっとも忙しく、熱い夏を共に過ごした。プロジェクトに入ってもらう為にわざわざ機密保持契約まで交わしてまでやってもらった。こちらがいい経験をさせてもらえたと今では思っているし、森田君もだがこれからの時代を共に作り上げる仲間として共にがんばっていきたいと思う。そんな彼との再会がロンドンであった。
後藤さんはひとしきりブースの内容を畑(Roger)に説明してもらい全体の感想や個々のアドバイスを行ってくれた。日本でエンジニアとしてキャリアを積んで海外に出て語学を学び、ドイツの大学でインダストリアルデザインを学んでいるという夢や目標に向かって真っすぐに生きる中で学生とふれあい、そして刺激を与えてくれたように思う。こういう出会いは本当に大切にしたいものだ。
そうそう、今回のチームの事をずっと学生有志と呼んでいた。なぜそう呼んでいたかというと、もともとは学校の一つのプロジェクトとして考えられていた。出展料やアテンドも全て学校側が行うとの内容になっていて、そのディレクションを任された形だったが、学校側のいろんな諸事情によりプロジェクト化を断念せざるを得ない状況になったのだが、一度学生に着火した物は当然消えるわけもなく全て自費で行くという事になった。彼らの覚悟を見たので大人としてきちんと最後までご一緒する覚悟を決めたのももはや一年程前の話。
そんな学校の海外研修先が実はロンドンだった。つまりメンバーのクラスメイトが見に来るのだ。どうやらそれが今日らしい。なんて事を思っていると見慣れた団体に遭遇。海外研修組だ。彼らは朝100% LONDONに行き、昼にDESIGN JUNCTIONを見て今TENT LONDONを見てそのあとテートモダンに行ったりするらしいが、明らかに時間が足りていないスケジュールだ。それは全て一日づつかけて見学する物ですよ。情報量が多すぎておそらく消化不良するだろうなと思いながら、海外研修組をMANGAKAのブースへお連れする事に。
MANGAKAにもともとメンバーとして在籍していたけど、学校の運営でなくなった途端に両親の反対(もちろんそれも理解できる)があって敢え無く離脱したメンバーも来てくれたり、メンバーの下級生も来てくれたりと、ネイティブイングリッシュでがちがちになっていたメンバーも少しほぐれたようだ。
何より自分たちが誇らしく感じただろう。自分たちだけでここロンドンにきて海外の人達に作品をプレゼンテーションしているという経験は、もしかしたらこれからの人生においてもうそんな瞬間は来ないかも知れないし、僕自身はそれを夢見て11年かかったので容易ではない事をしっかり伝えていたが、経験がないだけに伝わりきっていなかったかも知れない。でも「学校で視察に来る事」と、「自ら出展する事」のコントラストは相当だったと思う。こういう経験は一年でも早い方がいい理由はここにある。この経験が彼らの今後の人生に大きく作用する事がわかっていた。だからこそしっかりと「忘れられない経験」にデザインする事が僕とエンヤの責務だと自覚してここまで一緒にやってきた。彼らに何か着火しただろうか。そうであればいいけどまだそれを強く感じる瞬間は来ない。そのうち感じられるといいな。
しかし人が多い。そしてその大半はクラスメイトだ。狭い路地が東洋人であふれかえる。黒山の人だかりとはこのこと。人が多く集まっていると「何事か」とさらに人が増える。黒山と金山が入り混じり随分な状況に。これではまるでスターデザイナーのレセプションパーティじゃないか。でもそんなエキサイティングな状況も悪くない。何より研修で来た学生たちも同い年のクラスメイトがこうやって頑張っている姿を見て何かを感じてほしい。エデュケーショナルなとてもいい時間。
日も落ち始めて、僕も会場内にあるTENT LONDON、100% NORWAY、IMAGINE TOKYOをおおよそ見終わり三日目が終わろうとしている。あと一日(しかも最終日は搬出があるのでだいたい短く設定されている)で終わりと考えると少しさびしい。メンバーはよりそういう気持ちが強いだろう。足も疲れていたし僕はTENT LONDON内のパティオ(中庭)にあるハンモックに横になり、少し旅の回想を始める事にした。あと来春には自分の番がくる。その為のアイデアをしっかり練ろうかと。写真はそのパティオの風景。世界中のデザインが集まる会場の中、少しゆっくりした気持ちで以前考えていた構想と、今のフィーリングでアイデアを練り直してみた。悪くない。
いつもアイデアはストックされているけど、どのアイデアを行うかというのはだいたい未来の自分が決める。つまり閃いたアイデアが面白いと感じても次の日には、あるいは一週間、一か月経てば「なんだか陳腐だなぁ」と思ってしまう事が多い。そういうアイデアはだいたい試作が終わる頃には輝きを失っている事が多い。そういう風に足の速いアイデアにならないように常に熟成と調整をかけながら育てていく。
そういえば先ほど書いた森田君がまだ来ない。今日の展示もうすぐ終わってしまうのだけど…。どうやら他の展示を見ていて間に合わなかったようだ。三日目が終わり、森田君から連絡を受け取り会場の外で合流。どこかでごはんでもという話になったけど、せっかく家を一軒借りているので森田君にはぜひ家に来てもらい食事してもらう事にした。
そういえば今日出かけているチームが食事を作ってくれているはず。帰宅すると僕らを出迎えてくれたのはオムライス(ジャスミンライスの)。僕がオムライスが好きという情報をどこかから聞きつけたのだろうか。大変おいしかった。TESCOで買い込んでいたビールやスナックがあるので今宵は森田君の話をみんなで聞く事にした。相変わらず行動している。このくらい行動力があれば若くして大きなことを成す事もできるだろうと思った。英語は本当に苦手科目だったそうだが、自分がしたい事の為に今ロンドンまで来て英語を学んでいる。先を見据えた動き方ができる所も非常にクレバーだと思う。
外に出ていたチームも昨日僕らが行ったDESIGN JUNCTIONに行ったらしい。徒歩で。
耳を疑ったがタクシーで割と飛ばして15分~20分くらいかかる距離。片道2時間程歩いていたそうな。これも旅かと思いつつ、危険な目に合わなくて良かったなと改めて思う。彼らの話と森田君の話を聞きながら夜は更けていく。いい時間の過ごし方。日本に帰ってもこうやって仲間とデザインを語り合いたい。僕に必要なのはそういう事じゃないだろうか。そんな風にすら思える素敵な夜。
明日はいよいよ最終日。一年半やってきたことがここで完結する。
これまでの成果は上々だし、とにかく例のやつ(トラブル)がこのまま来場されない事を祈るばかりだ。
さー寝よう。寝坊しないように。